金融column
2023年02月09日
近い将来、日本の多くの企業では、既存のITシステムが老朽化することで、事業のさらなる拡大、企業の成長が妨げられる「2025年の崖」と呼ばれる問題が生じると警告されています。
これを回避するため、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)への取り組みを始めています。
経済産業省も2018年に、日本企業がDXを進める動きを加速すべく、「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を発表しました。
しかし現状では、DXに取り組み始めたものの成果が感じられないという企業が多いようです。
DXの定義
- 「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念のことを指します。
- 近年では、一般的に「最新のデジタル技術を駆使した、デジタル化時代に対応するための企業の変革」という意味合いのビジネス用語として使われています。
DXの推進が求められている理由
- 既存システムの老朽化・ブラックボックス化
- 多くの企業において、既存のITシステムの老朽化、ブラックボックス化が起きているといいます。
- ブラックボックス化とは、カスタマイズを繰り返したためにプログラムが複雑化した状態システムを構築した担当者が退職したなどにより、システムの全貌が解明できなくなった状態のことです。
- 企業がこうした既存システムの問題を解消できない場合には、2025年以降、日本経済に年間で最大12兆円(現在の約3倍)の損失が生じる可能性があるという衝撃的な内容も記されました。これがいわゆる「2025年の崖」です。
- 消費行動の変化
- 消費者のマインドや行動の変化です。近年、消費者の多くが、商品そのものを買うことよりも、商品やサービスを購入することで得られる体験の質を重視するようになってきました。
いわゆる「モノ消費」から「コト消費」への移行が進んでいるのです。
- また、近年では、余っているものや場所を無駄にせず、みんなで共有して使うという新しい価値観と消費の形が生まれました。
カーシェアリングやシェアサイクルといったシェアリングエコノミー型のサービスが人気を集めています。
- 今後は企業もこの流れに対応して、消費者に価値あるコトや魅力的で特別な体験を与えられるような、新たなビジネスモデルを模索しなければなりません。
そのためには、システムはもちろん、業務や組織全体をも変革する必要があるのです。
- デジタル化によるビジネス環境の激変
- あらゆる分野で、デジタル技術を駆使した革新的なビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、既存の産業を揺るがす「デジタルディスラプション」と呼ばれる現象が起こっています。
- amazon.com(アマゾンドットコム)は、巨大なプラットフォームを構築して本や音楽CDをオンラインで買うという新たな買い物スタイルを生み出し
それまで店舗での販売を中心に展開していた書店やCDショップに打撃を与えました。
- アメリカのUber(ウーバー)やAirbnb(エアービーアンドビー)も、デジタルディスラプションを起こした企業として知られています。
ウーバーは、スマートフォンアプリやWebサイトを使って、一般の登録ドライバーと、車で目的地まで移動したいユーザとをつなぐ配車サービスです。
エアービーアンドビーは、ウーバーの不動産バージョンともいうべきもので、アプリやWebサイトを通して、空き部屋を貸したいホストと部屋を借りて宿泊したい旅行者とをつなぐサービスです。
- 人々の価値観を覆し、新たな生活スタイルをもたらすような製品やサービスが次々と生まれ、ビジネス環境が大きく変わりつつあります。
そのなかで既存の企業が生き残るためには、DXの推進が不可欠だと考えられているのです。
自社が身をおく業界でデジタルディスラプションが起こってからでは、もう手遅れかもしれません。どの業界・企業においても、変革は急務といえるでしょう。
DX推進を支えてくれる技術例
- AI
学習や言語の理解、予測、問題解決など、人間にしかできないと考えられていた知的な行動の一部を、コンピュータで再現する技術のことです。
- IoT(Internet of Things)
車や家電など、これまでインターネットに接続されていなかった「モノ」をインターネットにつないでモノの状態や人間の行動などの情報を収集・分析し得られたデータを活用することで、新たなサービスを生み出す技術です。
- 5G
「5th Generation」の略で「第5世代移動通信システム」のことです。現在使われている4Gから5Gになることで、通信速度が約20倍(4Gとの比較においての想定倍率)になり
10倍の端末への同時接続が可能になると言われています。端末の同時多接続ができるようになれば、IoT化が加速する可能性があります。
- モバイル
移動先や外出先で通信できる技術のこと。一般的には「モバイル」というと、スマートフォンや携帯電話、タブレット型PCといったモバイル端末を指す場合が多いかもしれませんがDXにおいてはそれらモバイル端末を活用してビジネス活動を行うことを指します。
DXを進める上で課題
- 既存システム
多くの企業において、すでに既存システムは老朽化し、技術面でも機能面でも限界を迎えつつあります。
ブラックボックス化しているケースも少なくありません。このような既存システムの状態が、DXを進める上で足かせとなっています。
また、事業部門ごとにそれぞれが最適と判断した異なるシステムを使ってきたために、企業全体でのデータ管理や連携ができず DXが思うように進められないというケースもあります。また、特定のベンダ(メーカ)の独自の技術に依存したシステムを導入した結果後から他ベンダのサービス、システムに乗り換えにくくなってしまう「ベンダーロックイン」という現象も問題になっているのです。
- 資金不足
日本企業のIT関連予算の8割は、現行ビジネスの維持・運営に充てられています。つまり多くの企業では現状維持が精一杯でシステムの刷新や新たなIT戦略に資金を充てることができていないのです。
- 人材不足
AIやIoTといった最新のデジタル技術に詳しい人材や、デジタル技術を生かした新たな事業・サービスを企画できる人材が必要です。
しかし多くの企業では、自社での人材育成が遅れている上に、社外から確保することも困難という厳しい状況です。